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渋谷の改修 | SHIBUYA Renovation [SUR]

渋谷駅から徒歩圏内、閑静な高級住宅街にあるマンションの一室の改修工事である。

品川の賃貸マンションに暮らしていたご夫婦が、渋谷のマンションを購入し引っ越しをするということから内装改修の設計依頼を受けた。

新居の近くで会社を経営されているご主人と会議以外は在宅勤務の奥様、お手伝いさん、猫4匹という家族構成である。

建て主が新居を考える上でまず大切にしたいことは“風の流れる開放感のある家”ということであった。2方向(南東、南西側)が開けていて隣棟間隔が確保され隣棟の高さが高くなく周りは植栽に恵まれている、といった環境的に好条件の揃った住戸であるため、都心のマンションでありながら周辺環境との対峙ができるその好条件を活かすことを考慮し、設計を進めることとなった。

それ以外にも具体的な要望として奥様の趣味である茶道(裏千家)に必要な茶室、将来的に料理教室ができそうなキッチン、テレビ視聴ができる浴室、書斎、猫が家の中を自由に行き来できる猫扉、壁面収納等さまざまな要望が挙げられた。

それらを踏まえ、最初のプレゼンではバラエティに飛んだA~F案の6案を提示した。

玄関から露地空間を通り茶室やリビングへアクセスするプラン。リビングの中に茶室を入れ込む(オープン茶室)プラン。浴室が屋外側へ面したプラン。インテリアに外部的な庭を作り込むプラン。現況の設備配管の位置に沿って水廻りを配置しリビングがバルコニーに面したオーソドックスなプラン…。

建て主にそれらのプランを提示し住戸のアウトラインは決まっていえども、多種多様なプランにできるという可能性を感じて頂いた。

その中でも玄関から露地空間を通り茶室やリビングへアクセスしバルコニーに面した寝室に繋がっているプランが選ばれた。使い勝手を考慮するために水廻りを変更したり裏千家の作法にならい茶室廻りを変更したり、何度かブラッシュアップを重ねていった。水廻りに関しては現況の位置から大幅に動かしてしまうと設備配管へのつなぎ込みが困難となるため現況の位置からあまり動かさないようにした。

玄関から入ると正面に向かって洗い出し床の露地空間が広がり、左側には洗面、食品庫、キッチンへと繋がる廊下がある。露地と廊下の間にはWC、洗濯機や冷蔵庫、収納スペースを一まとまりのBOX上に配置し、露地空間の和の雰囲気と調和の取れるホワイトBOXとして抽象化している。

京間4畳半の茶室には床柱、角柱、落し掛け等の茶室材を建て主と共に資材屋に出向き選定している。伝統的な茶室の仕来りからあまり逸脱したものにはしたくない、という奥様のためらいもあったが、椿の床柱や腰張りの柄など、奥様の印象に非常に良く合う趣きのある空間となっている。

リビングと寝室にかけては空間的な広がりや外部を少しでも感じられるように相互の間仕切の欄間部分をガラスにして透明感を持たせ、扉を開け放てばリビング⇔寝室に風が抜けるように配慮している。また、玄関を開ければ共有部分の中庭から風が通り抜ける。

生活の大部分をこの2室で過ごされるため開放感を持たせるために面積を多く割き収納は壁面に効率良く配置している。

周りの環境に恵まれているということもあったが、スケルトンの器という骨格が定義づけられている前提条件の中で、周りとの環境とどう向き合って開放性を持たせるのかということを紐解く良い参考例となった。

マンションの一室でありながら場所性・特異性を盛り込んだこの住戸が施主のスタイリッシュな生活スタイルとあいまって、施主にとって居心地の良い安らぎのある空間になることを願っている。