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北千束の家 | KITA-SENZOKU House [KSH]

敷地は住宅密集地であったが、どのような場所であっても我々は住まい手が快適に住まう方法を考え提案する必要があることは言うまでもない。また、ひとえに快適といっても感じ方や捉え方は千差万別でもある。

例えば地域に開くことがそれに繋がる場合もあるだろうし、その逆になることもある。これは区分所有する敷地を地域に差し出しコミュニティを形成するための一助にするといった近年の新しい考え方でつくられた住宅のありようとは異なり、建物の周辺に存在する公的領域でも私的領域でもない隙間と呼ばれている空隙をも区分所有したエリアの中に取り込み、一端は周辺とは切断された中で、ピロティ、通り土間、アウターリビング、ルーフテラスといった内部空間の周辺が住環境に必要な光や風といったものを取り込む仕掛けとなりながら、内側に向きつつ快適に生活にして行こうという計画である。その姿勢は、周辺にある電柱の影を映し出す外壁にも表れている。

プライバシーを重んじるこの住宅の居室は、外界から少しだけ距離を取った敷地中央部の空に近い上層階に配置した。また、隣家が迫り比較的暗い1階には非居住スペースを配し、バッファとしての通り土間を設けることにより外界との距離を縦方向に拡張した。通り土間は扉を開放した時には周辺と繋がる仕掛けだが、上述した考えから住まい手の気分により都合良く接続できるような形式としている。

持ち上げられた居住域には、小さな内部空間を中心にアウターリビングとしてのテラスを外周部に複数設け、閉じたスペースの中においても、視覚的な広がりを確保しようと考えた。

最上階には2つのもっともプライベートな室を配し、北側斜線により切り取られたボリューム部分には北側隣家とこの住宅の隙間を内包するルーフバルコニーを設けている。また、その隙間から得られる環境を、室の間に設けた階段室を経由し中間階にも取り入れようと考えた。

今回の住宅では、密集市街地の狭小敷地において、住宅は都市を構成する要素のひとつと捉えながらも、ボリュームを最大化しつつ、建築主の住まい方を考慮しながら、周辺環境と都合良く関わろうとすることをひとつのテーマとしている。

切り口は変わるが、近年高騰する建設コストへの対応も十分に検討する必要に迫られることになった。この計画を具現化するためには、我々が規範としてきた積み上げ積算方式では到底予算内に納まらないことがわかっていたことから、早い段階で施工者を決め、ディテール及び素材の選定などは施工者のアイデアも聞きコストを下げる方法を探った。

世間ではデザインビルドと言われている方法である。これは当たり前のことの様にも思えるが、通常は設計者のみで考えることがまだまだ多い。

生産システムまで踏み込み住宅を設計するという今回のようなプロジェクトは、時代が大きく転換しようとする時期だからこそ巡り会えたものなのかもしれない。

北千束の家|Kitasenzoku House